2008年06月11日

秋葉原通り魔殺人事件、私見。「絶望国家日本」

 この事件については、発生直後から、記事を書こうと思って、何度も挫折している。
 その後の報道に違和感を覚えつつも、それが何であるかも把握できないままである。
 以下に書くことは、私自身の経験に基づく、まったくの私見であることをお断りしておく。

 マスコミは、この事件の容疑者のことを、何とか「キレやすい性格の異常者」という印象に持っていこうとしている様な気がしてならない。別に高校の卒業文集に、剣をもった女性戦士(ゲームに出てくるようキャラクター)のイラストを描いていたからと言って、それを今回の事件に結びつけるのはいくらなんでもこじつけだと思う。そんなイラスト、今の若者はたくさん描いている。

 私が感じたのは、この容疑者と自分の共通点の多さについてである。
 私は、この容疑者の2倍近い年齢であり、育ってきた時代背景は全く違う。
 しかし、厳しい両親に育てられ、中学校までは成績はトップクラス、県内で有数の進学校に入り、そこでも成績は上位。ここまでは同じだ。違う点と言えば兄がいたことくらいか。

 そのあと、この容疑者は受験に失敗した。マスコミではここでの心の挫折感を強調している。それは確かにあると思う。
 私自身は、一浪したが、志望大学に合格し、そこで良い友、良き師に恵まれ、幸福な大学時代を過ごした。この点は容疑者とは全く違う。
 そして、就職でも、「就職氷河期」という言葉の二世代前の就職難の時代に、一流企業への就職を決め、晴れて幹部候補生として大企業に入った。
 仕事は様々なもので、難しかったが、楽しくもあった。しかし、与えられる課題を次々にクリアしていくにつれ、会社はさらに難しい仕事を投げてきた。そして、私はここで挫折する。

 仕事の中身は言えないが、まぁ、今でいう名ばかり管理職につかされた上で、すさまじい量の仕事と責任を負わされ、本来なら共同して仕事にあたるべきメンバーが皆、逃亡してしまい、1人でその難題を処理したのである。
 仕事は処理したが、私は過労うつ病を発症した。
 そこで私の栄光の出世街道は幕引きとなり、以降はうつ病との闘病生活であった。
 当然、結婚もできない(ここらへんは容疑者と一緒だ)。病の中で、薬の副作用も相まり、朦朧とした意識のまま数年を過ごすが、それでも大企業の正社員であったため、制度が完備しており、傷病扱いとして、回復するまで、会社にいることはできた。しかし、出世街道からは当然ながら転げ落ち、窓際族となった。

 この意識もうろうとした数年間、私の心を支配していたのは、会社と、仕事を前に逃げ去った上司、そして左遷後に、散々いじめてくれた別の上司への憎悪であった。
 私は憎悪に身を焦がしていた。殺意というものは芽生え無かったが、限りなくそれに近かったと思う。
 また、うつ病の症状の一つとして、絶望感、自分などいなくなってしまえばよいという、自殺願望にも襲われた。これは理屈ではなく、病気の症状なのだ。

 投薬による治療で、病気は治って行った。その結果か、気持ちが切り替わったから治っていったのかはわからないが、いつの間にか、私はそのような憎悪の世界から卒業していた。今でも、後者の方の元上司とは会えば殴るくらいはするかもしれないが、それほど気にならなくなっている。
 今は、残りの人生をいかに前向きに生きるかを考え、友人との交流を楽しみながら生きている。

 さて、最初にお断りしたとおり、ここまでは私の経験に基づく、まったくの私見である。
 確かに、出世街道の道を断たれたことへの挫折感というのはあった。また、その原因となった仕事や、その背景にある会社の腐敗、直接の上司への憎悪、自殺願望など、今、マスコミで、この通り魔事件の容疑者にあてはめようとしている感情はすべて経験した。

 しかしである。ここから先は、個人によって違うと言われればそうかもしれないが、私は、この容疑者が私と同じようなうつ病患者とは思わないし、また、挫折感が理由で社会を恨み、凶行に走ったとも思えないのである。マスコミは何とかして、この容疑者を、キレやすい、病的な異常者に持っていこうとして、そこにまで彼を追い込んだ社会的、生活面での背景に踏み込むことを意図的に避けているような気がするのだ。

 上記に述べたように、マスコミがあてはめようとする類型からすれば、私もまた殺人者になる可能性があったということになる。挫折の原因が違うが。
 しかし、まず、うつ病患者は自殺はありうるが、殺人を犯すほどのエネルギーをもちえないのが普通であるし、この容疑者は欠勤をする前までは、普通に勤務に来ていたというのだから、うつ病患者ではありえない。

 社会が悪い、世間が悪い、と言って、凶行を弁護するつもりはないが、この容疑者が抱えていた、「将来への不安」というものを、もっと見つめるべきだと思う。
 それは、今、不正規雇用で、ワーキングプアと呼ばれている、若い世代(「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれる)に共通のものであろう。
 不安定な雇用、低い賃金。当初30万円以上と発表していた会社側はその後徐々に明細を明かし、実際の手取りは20万円を切っていたという事実をこっそりと発表している。
 それでは、生きていくことはできても、結婚や、将来家庭や家を持つという、バブル以前では普通のサラリーマンの普通の夢であったことを実現することが不可能な状態に置かれている。

 私と彼の違いと言えば、私は正社員であり、制度の範囲内で身分と収入(減額はされていたが)が保証されていたことである。
 つまり、この容疑者は、自分の人生に絶望していたのであろう。日々生きていくことはかろうじてできる。しかし将来に何の保証も展望も持てない。
 そういった追い詰められた感情が、ゆがんだ形で発露したのが今回の事件ではないかと思う。
 「絶望は死にいたる病」ともいう。将来に希望を持てない人間を世代単位で生み出している今の日本では、この容疑者一人を異常者として騒ぎたてて事件が終わるとは思えない。

 アホ・・・、いや安倍晋三を例に出すが、幼いころから、頭が悪いとして、一族とかかわりの深い財閥系の大学の系列小学校に入り、エスカレーターでその3流大学を卒業しても、親族のコネで大企業に入り、当時の同僚から、あきれられるほどの無能ぶりをさらけ出しながら、やはり一族のコネで世襲政治家になり、首相にまでなったあと、それを無責任に放り出してなお、いけしゃあしゃあと、復権しようとしているような人物に、「再チャレンジ」などと言われても、この「ロスト・ジェネレーション」の人々には全く共感を得られないのである。

 この容疑者の凶行は全く弁護しがたい。しかし、今のような大企業や政治家の利益のために、不正規雇用、ワーキングプア1000万人、物価値上げしょうがない発言などの政治が続く限り、このような事件はいつ起きても不思議ではないのである。

 「絶望国家日本」。今やそうなっているという事実から目をそむけてはならないと思う。
posted by 眠り猫 at 05:25| 東京 晴れ| Comment(1) | TrackBack(8) | 時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>それでは、生きていくことはできても、結婚や、将来家庭や家を持つという、バブル以前では普通のサラリーマンの普通の夢であったことを実現することが不可能な状態に置かれている。<

解決しなければならない社会問題としては、おっしゃるとおりだと思います。
日本は世界18位の豊かな国なのに、働いている若者が家庭も築けない異常なことだと思います。日本より豊かでない国でも労働者が普通に家庭や子供を持てているのに。

原因は、
1、一つは収入の問題。
2、もう一つは、生活にかかる負担の高さ。
です。

2を高くしているのは、下記のブログの方がいってるように日本独特の「公的サービス利用料」という日本独特の国民負担だと思います。国民が税金を納めるのは、国民が必要な公的サービスを国がおこなう費用を賄うためだと思うのですが^^;。
ttp://papillon99.exblog.jp/7449613/
Posted by しっくい at 2008年06月11日 22:22
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