2007年07月29日

【再掲】基本的人権への重大な制約と徴兵制との関係

 改憲問題に関心があり、多少なりとも勉強された方には周知の事実だろうが、自民党改憲草案においては、現在の憲法11条による、基本的人権の保障の項目に続き、12条に数語の言葉が追加されることにより、基本的人権よりも国家の意向を優先して人権を制限できるようにする意図が明確に示されている。

 具体的には、現行憲法11条「基本的人権の享有」において、「国民はすべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。」と明記されている。誤解の無いように補足すると、次の12条で、権利濫用の制限が記載され、権利は「公共の福祉のためにこれを利用する」っと現行憲法でも明記されている。
 現行12条の現実面での、典型的な例は、「土地収用法」などのようなものに顕れる。
 必要不可欠な公共事業に対し、地価のつり上げを目的として、土地の売却を拒むような場合に、厳正で非常に複雑な手続きの元に、適正価格での土地の強制収用を認めている場合などである。

 しかし、自民党の改憲草案では、まさに、この12条に、文言を足している。
 具体的には、上記の「公共の福祉のために用いること」の部分が、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。
 となっている。つまり従来の12条よりも、「公益」と言う言葉が加わり、さらに「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し」と、基本的人権の特に自由の権利に対して、大幅な制約を加えている。
 ここが最大の問題である。

 この後、自民案による改憲の目玉として、「撒き餌」のように、「個人情報保護、知る権利、環境権、犯罪被害者の権利、知的財産権を規定環境権」などをあらたに規定している。いわば、「加憲論」、「創憲論」を一部内包する案のように見える。

 また、私が、先日のエントリー、「自民党改憲草案が徴兵制をもくろんでいる証拠」において述べたように、現行憲法では、憲法18条で、「奴隷的拘束及び苦役からの自由」が保障されているが、改憲草案では、元々1つの文章であったこの条文を、「第1項 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。第2項 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」と、一見変化の無いように見えながら、2つの項に分けている。これは法学の解釈上の通説を知らねばならないが、同じ条文の1項、2項では、前にある項のの方が優越することを理解してもらいたい。つまり、自民党の草案では、「苦役からの解放」が、条文から、その下の「項」に格下げになり、第一項からは削除されているのである。

 ここまで述べてきたように、自民党の改憲草案では、一見加憲的に新たな人権を創設したかのように見せかけている。しかし、実際には、12条の改悪(上記赤文字の部分)によって、旧来の権利も、18条の苦役からの解放も、新たに創設された人権も、全て、「公益及び公共の秩序」に反しない範囲でのみ、許容されるという、重大な意味の転換が図られているのである。

 この改憲の結果としては、国の意向(公益と称する)や、公共の秩序(多数派や資本力のあるもの)の意向が、あらゆる基本的人権よりも上位に来ることになる。
 私は、以前のエントリーで、現行18条から、改憲草案では、「苦役からの解放」が消滅したことと、この12条改悪によって、自民党が目指すものは、「徴兵制」に他ならないと述べたことの詳細は、ここにあるのである。

 以前のエントリーのコメントには何もつかなかったが、ネット内で、他のサイトで私の「徴兵制導入疑惑」に対して、「今のこの時代にまさか」とか、「現代戦では、職業軍人だけで十分戦争はできる」などと言う、懐疑的な意見が散見されたが、本来、徴兵制禁止の役割を担ってきた18条を、上記のように2重に改悪(12条による公益の優先と、18条自体の改悪)することによって、自民党が目指すのは、やはり、徴兵制並びに、警察(昔の特別高等警察の役割も持って)が、根拠無しに、国民を拘束、苦役に服させることを可能にする改憲案なのである。直ちに徴兵制施行ではないにしても、それが可能な道筋を用意しているのである。
 そうではないという人がいるならば、何故、12条と18条をこのような形に改めるのか、説明してほしい。
 まさに、自民党憲法改正草案は、「国民の基本的人権の制限と、国益の名の下に、国民を拘束、服従させる意図を持つ」と言うことが、明白なのである。徴兵制へも道を開こうとしている。

 この動きは、自民党の中では共通認識のようで、伊吹文部科学大臣の、「人権メタボ」発言や、極右の石原慎太郎が、自著で、「権利ばかりが多すぎて義務が少ない」と言っている事の反映である。
 この憲法になると、権利は、不条理で予測できない制約を受け、義務は無限に増やすことができるのである。決して許してはならない。

 参議院選挙を前に、各党の方針が出され始め、護憲勢力も意見を現わしているが、共産党が9条護持のみを叫んでいるのには、不十分感がある。上記のように、国民のもっとも貴重な基本的人権に国家による制約を加える改悪が用意されている点にも、触れて、護憲を求めていくべきであると考える。
 共産主義では、公共の福祉が個人の人権に優越するのが常識だからかもしれないが、ここは、本当の意味の護憲の立場で戦ってほしい。

 長くなったが、ここが、今回の選挙での、改憲に関する、9条護持と並ぶ、「肝」なのだと認識してほしい。
posted by 眠り猫 at 05:25| 東京 ????| Comment(3) | TrackBack(2) | 憲法改正
この記事へのコメント
はじめまして。管理人様同様、私も自民党草案における人権規定の置き方に強い危機感を持っております。

以前「津久井進の弁護士ノート」でコメントさせて頂いたのですが、自民党改憲プロジェクトチームが出したまとめから推察するに、自民党新憲法草案の立法趣旨は「脱個人主義」「憲法の権力制限規範性の後退」「国益増進」あたりにまとめられるのではないかと思います。
この立法者意思を重んじて「公益または公の秩序」を解釈すれば、人権規制は非常に広範に認められることになるでしょう。最高裁が従前の「公共の福祉」基準で踏ん張る可能性もありますが、公務員の労働基本権問題の時の様な結末(保守的な裁判官を順次送り込まれて数年間で判例変更)を迎える可能性のほうが高いだろうと思います。

このように12条・13条・29条(管理人様が仰る「土地収用法」は29条の問題かと。)などは人権の限界を定めると言う点で非常に重要な規定であるのですが、世間は9条ばかり問題にしてこちらの改憲問題にはほとんど触れようとしていません。私はむしろ積極的にこの問題を取り上げ、9条と12条以下の言わば「二刀流」で攻めたほうが支持者を得やすいのではないか、と思えてならないのですが。

ともかく今はこの問題を広く伝えることが先決だと思います。
お互いリベラルな憲法を守るために頑張りましょう。
Posted by trilemma at 2007年07月29日 10:40
>trilemmaさん
 早速のコメントありがとうございます。
 ご指摘のように、9条だけを争点とすると、自衛軍備は必要と言う意見が台頭してきます。
 しかし、人権規程の見直しによる、国民の権利の制限を争点にすれば、自民党がいかに反国民的存在かが明らかになり、右翼であっても、それを否定はできないはずです。
 ですから、こちらも争点にするべきなのですが、何故か、各政党、この部分が弱いようです。実際に改憲が議論の俎上に乗るのであれば、大いにこの点を強調したいと思っています。
 今後ともがんばりましょう。
Posted by 眠り猫 at 2007年07月29日 12:35
自民党保守派など、所詮叩けば埃が出る人たちなので、相手の論理に乗った上で、相手の嫌がる制度を新憲法に導入することを主張するのも一つの手なのではないかと思います。

権利ばかり多すぎて義務が少ないということであれば、まずは、一般国民に比べて圧倒的に大きな権力を持つ政治家には、圧倒的に大きな義務を負っていただくことから始める。

憲法が権力を制限する唯一の規範であることを考えれば、現行憲法に足りないのは政治家の義務といえます。

・定期に政治家試験を受けさせることとする。法的拘束力がなければ、国民の選挙権を害することもありません。そもそも、司法権、行政権を行使するための試験がやたら難しいのに、政治家に試験がないのは変ですよね?
・所定の事項について、ポリグラフ検査を定期的に受けさせる。容疑は不要です。

などです。

また、国民の義務が必要という主張に対しても、なるほど一理あるということで、オンブスマン制度を新憲法に導入して、国民に国家権力監督義務を負わせます。

守りだけでなく、攻めの視点も必要なのではないでしょうか?

Posted by PALCOM at 2007年12月11日 06:01
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