2008年02月18日

コソボ自治州の独立について悩む

 旧ユーゴスラビアは、第二次世界大戦のパルチザンの英雄、チトー大統領が存命していた時は、何とか統一を保ち、冬季オリンピックが開催されたりもしていた。
 しかし、チトー大統領の死後、かつて、「世界の火薬庫」と呼ばれた、バルカン半島を含むこの国は、多数を占めるセルビア人の支配から逃れようとする、各地域、民族による独立の気運が高まり、クロアチアやボスニア・ヘルツェゴビナなど、セルビアを含む6つに分割され、各地が独立した。

 独立の過程で、「ユーゴ紛争」と呼ばれる内戦が勃発し、セルビア軍と独立派の戦いに、NATO(北大西洋条約機構)が介入(とはいえ、おもにアメリカ)し、大規模なセルビア空爆が行われた。
 余談だが、このときのアメリカの政権はクリントン政権で、アメリカ軍が投下した爆弾・ミサイルの総トン数は、ベトナム戦争のときの「北爆」を超えたと言われている。その理由として、今は忘れられかけている、電子機器の「2000年問題」を解決することが難しかったアメリカ軍が、古い弾薬を派手に使い尽くしたという噂もある。


 また、この内戦では、民族同士が互いに殺し合い、また宗教による差別(キリスト教とイスラム教)もひどく、相互殺戮の「民族浄化」と呼ばれる虐殺が各地で起きた。チトー治世下で、民族の融和が進んでいたにも関わらずである。
 日本では、遠いし、縁もあまりない国での話だったので、あまり情報は入ってこなかったが、内戦終了後、この民族浄化はすさまじい悲劇だったことや、当時のセルビアの指導者が、人道に関する罪で、国際法廷で訴追されるなどの結末を迎えている。


 この紛争後、マケドニアなども独立し、今回もコソボ自治州が昨日、議会で一方的な独立宣言を出した。アメリカとその腰ぎんちゃくの日本はコソボの独立を承認すると表明しているが、国連常任理事国であるロシアが強硬に反対しており、コソボは国連には加盟できない。
 また、コソボの人口の9割前後は、隣国のアルバニア系住民で、すでに独立反対の集会が計画されるなど、必ずしも「コソボ民族」というものがあっての、民族自決とは若干様相が違うようである。

 私は、この件について、独立が正しいともそうでないとも言うことができない。

 昔、世界史を習っていたころは、「民族自決」というものは「正義」であり、個々の民族が持つ権利だと頭から信じていた。
 しかし、実際の国際情勢を見ていると、たとえばアフリカのルワンダにおいて、民族どころか部族間の争いで、一方が一方を虐殺するという悲劇が起きた。今でもスーダンのダルフール紛争では部族間の争いだし、アフガニスタンでは、多数派のパシュトゥーン人系のタリバンとそれ以外の民族の紛争が行われてきた。最近のパキスタン国内の自爆テロなどの混乱でも、パキスタンでは少数派のパシュトゥーン人の動向が問題となっている。


 こうやってみてくると、「民族自決」は、紛争をもたらす原因となり、必ずしも「正義」とは言えなくなってきていることに、否応なしに気付かされた。
 かつてのアジア、アフリカを中心にした、「民族自決」に基づく独立運動は、欧米列強の植民地支配から、現地の諸民族が独立を勝ち取る戦いであったため、時代遅れになった帝国主義的植民地支配に対する、その戦いは正義と教えられてきた。その面は確かにあるだろう。
 しかし、一方で、すでに欧米列強からの独立を成し遂げた国の中で、さらに細分化した民族(あるいは部族)の独自性を強調しての「民族自決」の戦いは、いわば、レイシズム(他民族蔑視)、ゼノフォビア(他民族恐怖症)に基づく場合が多く、その結果、悲惨な「民族浄化」に陥りやすいこともまた事実である。


 このようなケースでの「民族浄化」は、正義などではなく、単にその地区で人口構成または軍事力的に有力な一派が、他の民族を虐殺するというもので、「民族自決」というカテゴリーでの、独立紛争とは全く様相を異にする。
 たとえば、旧ユーゴでのクロアチアで独立の気運が高まっていた時、集会に、19世紀のクロアチア大公国の大公の扮装をした者を、熱狂的に迎えるという場面があった。これは、一種の懐古主義、国粋主義であり、近代では、大日本帝国やナチスドイツの例を引き、遅れたものとされてきた思想の形態ではなかったか?


 私は今、コソボ自治州の独立に、いくつかの懸念を抱かざるを得ない。
 今回の独立宣言は、必ずしも人口の多数を占める民族(主にアルバニア人)の意志に合っているのか?単に支配的なセルビア人に対する反発からだけの行動ではないのか?という懸念と、これを契機に再び旧ユーゴで、紛争が勃発するのではないかという恐怖である。

 かつて、「民族自決」が正義とされた時代を過ぎ、今は、相互の相違を「多様性」として認めつつ、融和していき、民族間(国家間)の対立を無くしていく、汎世界主義(コスモポリタニズム)の方が理想とされるのではないかと思う。
 しかし、現実には、その社会において、支配的な勢力の民族が他の民族を抑圧したりしているため反発が生じ、「民族自決」を合言葉に、紛争が多発しているのが現実の世界だと思う。

 これに、近年台頭している、イスラム原理主義、キリスト教原理主義などが加わり、さらに対立の原因を作り出している。アメリカの大統領ですら、キリスト教原理主義的な言動でもって、アフガニスタン、イラク侵略を行ったのである。それはブッシュ一人の罪とは言い切れない。そのような風潮がアメリカには確かに存在するのだから。


 この問題に対して、私は回答を持たない。いずれ歴史と人類の進歩か堕落かが決着をつける問題なのかもしれない。
 ほぼ単一の民族で構成された日本においてすら、民族的には同一でも、歴史的、文化的に違いがあると言うだけで、沖縄の人を差別する傾向が、保守層を中心に根強くあるし、ウタリ(アイヌ民族)は、すでにその伝統が失われつつある。ほぼ同一に近い民族の中にあってすら、レイシズム的な民族差別が存在しているのを見ると、日本以外の、実際に異なる民族が同居する国家において、「民族自決」に基づく紛争が続発している現在を、どう捉えるべきなのか?
 私には、まだ答えが見いだせないでいる。答えがあるのかどうかすらわからない。


 ただ言えることは、日本は、アメリカに追従するのではなく、9条を持つ国家として、セルビアとコソボの仲介をするなどの労を取り、少なくとも流血の惨事を回避するよう努力するべきだと思う。パレスチナ問題しかりである。


PS.日本におけるネット右翼の、中国韓国、北朝鮮に対するレイシズム、ゼノフォビアぶりは、決して日本人の多数ではなく、一部の特殊な頭の持ち主のみの発言と考える。経済や外交の常識では考えられない奇矯なことを、繰り返し(進歩がない)垂れ流しているだけだからである。

(今日もランキング応援よろしくお願いします。)

posted by 眠り猫 at 19:06| 東京 ????| Comment(3) | TrackBack(5) | 思想
この記事へのコメント
眠り猫さん、こんばんは。

「ウエルカム・トウ・サラエボ」という映画があります。
 かなり生々しいですが…
 平和リベラルの人ほど見て欲しいと感じています。

 「保守」だろうが、「平和リベラル」だろうが、戦争したがる連中は沢山いる。
 「保守(現実)」は金儲けで戦争を推進し、「平和リベラル(理想)」は主義主張で戦争を推進する。

 年明けの平和リベラルのごたごたを見て、平和とか騒いでいる人ほど、平気で戦争するなと感じました。
 リベラルな人が自民党的権力志向(力のある人と自分が仲が良いとアピールしたり)があるのも???ですし。本当に訳が分かりません。

 結局、左も右も行動パターンは同じなのでは?と感じました。

 もしかしたら、旧ユーゴスラビアが平和への「実証」する場なのかもしれません。

 自分は、過度な民族主義になるのは「食えないから」ではと感じます。
 
Posted by くろねこ at 2008年02月19日 00:07
>コソボ自治州の独立に・・人口の多数を占める民族(主にアルメニア人)の意志
ア、ここアルバニアです。一文字違いでややこしいですね。
ユーゴ内戦については一度だけ、僕もログで書きましたけど、ホント厳しい戦場だったそうですね。フロントが無いから、ベトナムやパレスチナやアフリカ等の戦場取材してきた歴戦のカメラマンらが、数日で、「こんな戦場・・とは」と、凍りつくという状況だったとか。
他の独立を望む抑圧民族を抱えた大国の思惑も絡んで、複雑すぎて、とてもわかりくいので、なかなか扱えませんが、ヨーロッパの自前の平和構築努力が成功することを願ってます。他の紛争地域にも生かせるような経験智が高まることを。
Posted by 三介 at 2008年02月20日 02:44
>三介さん
 誤りのご指摘ありがとうございました。修正しておきました。
 私もどっちだったかな?とは思ったのですが、間違えたほうを使ってしまったようです。
 非常に複雑な問題です。コソボの民族自決を認めるなら、世界最大の非独立民族であるクルド人国家の成立をなぜ認めないかなど、欧米のダブルスタンダードが批判されてしまいます。
 ただ、今回の問題に限って言えば、コソボの独立の機運は、単に経済的に食えないのはセルビアのせいだ、と勝手に思い込み、欧米の支援を当てにして独立宣言の様相が強く、一概に民族自決として容認できるかどうかは不透明です。
 ただ、この問題が、再び流血の惨事にならないように、日本にもできることがあるはずだと思うのですが・・・・。
 この国の政府には何も期待できますまい。
Posted by 眠り猫 at 2008年02月20日 03:07
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