昨日の新自由主義批判(http://heiwawomamorou.seesaa.net/article/88245236.html)に続くエントリーである。
その前の書評(http://heiwawomamorou.seesaa.net/article/88113960.html)と合わせて、一連の新自由主義批判の連載記事としている。
今回、旅行の合間に、多くの本を読んだ。そのうちの1冊が、一昨日紹介した「ルポ 貧困大国アメリカ」であり、それに続いて、2007年12月に出た、「反米大陸」(伊藤千尋著、集英社新書)である。この2冊の発刊時期はほぼ同じで、最も新しい、アメリカとそれを取り巻く情勢と、アメリカの新自由主義の暴虐の歴史を伝えてくれる。
ここで言う、「反米大陸」とは、南アメリカ大陸を指すが、本の内容は、中米諸国、メキシコ、ハワイやフィリピンへのアメリカの侵略の歴史にまで及んでいる。
著者の伊藤千尋氏は、長年新聞社に勤め、たぶんスペイン語ができたのだろう、南米を主とする地域への特派員・駐在員を務めていた。そのため、1960年代以降の南米の歴史は、自分自身の目で見てきた人物である。
この本を要約することは、ブログでの表現の限界を超えている。だから、皆さんには、ぜひ、この本を読んでほしいと言うしかない。
なぜならば、19世紀以降、アメリカが中南米に対して行ってきた、経済的侵略と軍事的侵略、さらに、アメリカのCIAによって指導、支援された、軍事独裁政権の暴虐ぶりなどは、いちいち数え上げていては、ブログ記事に収まりきらないほどなのだ。本書ではそれを細かく伝えてくれる。
それらの侵略の基本パターンは、まず、スペインなどから独立した直後で、まだ国内が安定していない中南米の国に、19世紀は農業を中心にアメリカの大資本が入りこみ、そこで現地人を使役しながら、土地を買収し続け、中米の小国においては、国土の過半をアメリカの企業が所有するという事態を招いてきた。
この一方的な、富の独占と収奪に対して、19世紀から、中南米のいくつかの国では、反米政権ができ、それらの土地の没収と小作農への分配という農地解放が試みられた。
しかし、アメリカは即座に、「アメリカ人の生命と財産を守るため」という言葉のもとに、圧倒的軍事力で、政権を転覆させ、再び、農地解放以前の状態に戻していった。日本に来航したペリーも、これらに先んずる、スペインとの領土戦争で功績をあげた海軍軍人である。
20世紀前半までは、この状態が続く。中南米諸国では、国家の富はアメリカが独占し、国家の支配は、アメリカに追従するその国の富裕層が握り、国民の大多数は貧困に陥っていた。そして、アメリカのくびきから脱却しようという試みはすべて、アメリカ軍の直接介入で封じ込められた。
第二次世界大戦後、アメリカは世界の超大国になった。その背景には、「アメリカの裏庭」と呼ばれた中南米諸国から吸い上げた富があった。
アメリカのCIAが本格的に活動し始めるのも、このころからである。
20世紀後半は、南米にとって、もっとも暗い時代だった。1970年代に、民主的選挙で選ばれた、世界初の社会主義政権、チリのアジェンデ政権を倒すのに、CIAは、軍部のピノチェト将軍に資金、武器を提供し、クーデター後の統治の仕方を教え込み、チリはピノチェトによるクーデターにより、軍事独裁政権となった。
同じころ、中南米各地で、同様の軍事独裁政権がクーデターにより成立し、民主主義は葬られ、暗殺や拉致による恐怖政治が支配した。
これらの背後には、すべてCIAがいた。また、「米州アメリカ学校」という名前の、中南米の軍人を集めて、アメリカの支配への忠誠を誓わせ、クーデターの起こし方から恐怖政治のおこない方まで、アメリカが教えるという組織すらあった(現在どうなっているかは書かれていない)。
イラク人への拷問が知られるグアンタナモ海軍基地で行われた拷問の数々は、この米州アメリカ学校で教えられていたものと同じだという。「自由と民主主義の国アメリカ」はどこへ行ったのだ?
しかし、アメリカが「世界の警察官」を標榜し、世界的に影響力を行使しようとする一方で、南米においてはアメリカへの反感が高まり、軍事独裁政権は、次々と選挙により政権の座を放逐され、一部の軍人は犯罪者として裁かれた。
そして、さらにことは進んで、アメリカが湾岸戦争などで、中東諸国に目が向いている間に、ベネズエラのチャベス大統領が、それまでのアメリカの傀儡政権の代表を選挙で破り、一気にマラカイポ油田などの石油会社を国営化し、そこで得た富で、貧困層への教育と食と医療を無償で提供するという政策を始めた。
猛烈な反米主義者のチャベス大統領の台頭を受け、南米では次々に反米左翼政権が誕生する。どれも、正当な選挙による政権獲得であり、それまで搾取にさらされてきた貧しい人々が、選挙による権利の行使で、それまでの対米従属、被搾取の状態からの脱却を望んだのだ。
そして今や、南米大陸では、コロンビアを除く、すべての国で反米を標榜する政権ができている。
ここ数日のニュースでは、コロンビアが越境して反政府ゲリラの掃討をしたことに反発したエクアドルと、ベネズエラ・ボリバル共和国(新国名)は、コロンビアとの国境に軍を派遣し、にらみ合いが続いている。これもアメリカの策謀かもしれない(私はいつから陰謀論者になったのか?)。コロンビアの国土に一歩でも踏み込めば、アメリカとコロンビアの同盟に基づき、アメリカ軍が襲来し、目の上のこぶである、チャベス政権の崩壊を画策しているのかもしれない。
アメリカでは、プロテスタント系の説法師が、テレビで、「チャベスを殺害することこそが神の示したもう道」などと宣伝してはばからないのだから、可能性は十分あるが、チャベス大統領もそこは心得ているだろう。アメリカに隙は見せまい。また、もはや南米の反米の動きは、チャベス一人の生死には影響されないほどのモメンタムを持っている。
今、南米では、EUを模した、新たな南米大陸での経済共同体の動きも出ている。それは、アメリカが主導したFTAA(自由貿易協定)が、一方的にアメリカの新自由主義的経済侵略を招くという危機感からの動きだそうである。もしそれが成功したら、イラク戦争で落ち目のアメリカにとって、さらに不利な情勢がもたらされるであろう。
チャベス大統領は、独裁志向があり、先日は、独裁に道を開く憲法改正案が国民の支持を得られず、国民投票で否決されたが、依然、南米における反米の急先鋒である。
しかし、ベネズエラ・ボリバル共和国は、石油資源が豊かだったから、アメリカ系企業の国有化により、一気に国民に富をばらまくことができた。また、彼は社会主義を標榜しているが、それは、資本家=アメリカとその腰ぎんちゃく。労働者・農民=国内の貧しい人々。という図式と、企業の国営化、中米における革命の先進国キューバとの関係のために、そう言っているだけで、別にプロレタリア革命などを行っているわけではない。
重要なのは、チャベス大統領以外の南米諸国、特に南米の大国ブラジルとアルゼンチンが、やはり反米へと動いていることである。これらの国は別に左翼政権ではない(対米追従を右翼と呼ぶならば相対的に左翼と呼ばれるにすぎない)。これらの大国が中心となり、南米を一つにしようとしているのである。
著者は、最後に、対米追従を続ける日本は、やがて没落するアメリカと一緒に没落し、その過程でアメリカに食い物にされていくだろうと予測する。そしてそれを避けるためには、反米ではないが、中国など、アジア諸国との関係を深め、徐々に脱米を進めるのが得策であるとしている。
私見だが、もし、急激な反米を日本が唱えだしたら、在日米軍は、東京に侵攻する可能性があると思う。そう思わせるだけの、過去のアメリカの罪業が、この本には詳しく書かれている。
だから、まだ間に合ううちに、徐々にアメリカと距離を取ることが望ましい。関係は良好なまま、アジアへと軸足を移すのである。
この点は、以前に私が述べたアジア共同体論と合致する。
新自由主義により、アメリカ国内でも、格差が拡大している。また、行きすぎた新自由主義の金儲け至上主義が、サブプライム・ローンを生み、その焦げ付きで、アメリカ資本の根幹をなす金融界が揺らいでいるのが現在の状況だ。このままアメリカのバブルが崩壊したら、日本経済はどうなるだろうか?
しかし、日本経済はすでにアジアに軸足を移しつつある。輸出相手国としての1位はアメリカから中国に変わっている。中国だけへの投資ではリスクの分散が図れないとして、ウクライナやロシアにも工場を新設するメーカーも多い。また、私が旅行に出かける直前には、日本の銀行や証券会社が、アジアの金融界に、各社1000億〜2000億円の出資を行うというニュースが流れていた。
この動きがうまくいけば、日本は政治だけが問題で、それを除けば、アメリカの没落から逃げ出すことができる。アメリカが持ちこたえれば、再度付き合えば良いのだ。
最後に、四半世紀前、私が大学1年の時に、政治学の教授が言った、「アメリカは、なぜアメリカがかくも世界中で憎まれているかの原因を知ろうとしない」という言葉を添えておく。反省無き国家アメリカ。
(補記)今朝の毎日新聞の論説で、沖縄の米兵少女暴行事件について、まことに適切な記事があったので、今日のエントリーとは無関係だが、紹介しておく。
http://www.mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20080305k0000m070149000c.html
ぜひ、ご一読願いたい。
今日もランキング応援よろしくお願いします。




昨夏、”シッコ”を鑑賞して、
関心のあった南米の(キューバなど)国々の政治姿勢に更に興味が湧きました。
お薦めの本を読んでみたいと思います。
参考に成るアップ記事をありがとうございました^^
日本はアメリカとは上手くやりつつ、アジア他国と信頼関係を築き、日本独自の判断が出来るように独立しておかなければならない。
というのは紛争屋と称するの伊勢崎さんもおっしゃっておられました。
視野の広い方の言う事はたいてい同じで一貫してますね。筋も通っておりますね。はふ〜
キューバについてもこの本の終盤で述べられています。アメリカ経由のメディアが伝えるキューバとは全く違う、医療と教育が充実した福祉先進国キューバという事実が紹介されています。
キューバ革命では、カストロ議長や、チェ・ゲバラが有名ですが、カストロは弁護士、ゲバラは医師でした。二人とも恵まれたインテリ階層にありながら、搾取される人々のために戦ったのです。
現在、キューバは、中南米に対して、医師の派遣などの支援を行っています。
アメリカに追従しているだけで、私利私欲しか考えないどこかの国の為政者とはだいぶ違います。
そうですか。私は我流でものを考えていますが、同じ見解の方々がいるのは心強いです。
利権やしがらみにとらわれず、また一方で過激な反米主義にも走らず、論理的に考えれば導かれる答えが同じになるのは当然でしょう。
共同体については、福田首相も言ってますが真意を解説する報道(著述)もなく、論評不能です。
その前に、政治家の国際認識レベルがあまりにも低いのにはがっかりしてます。
「東アジア共同体」については、まだ外交上の美辞麗句の範疇を出ていないように思います。
本気なら、たとえ論争のタネになろうと、まずたたき台を出して、前に進めていくのが「仕事」のやり方です。
一方で右翼、保守論壇で対中国脅威論を煽りに煽り、自国の軍拡に結び付けようとしているのを、中国が気付かないわけがありません。そんな状況で述べられる「共同体」論など無意味です。
私としては、民間レベルで何かできないかと考えています。
あまりにも「反米大陸」を上手にまとめて書いておられますので、もう読まなくていいなんていう人がでないように願っていますが、本当にこれは必読の本ですね。
新自由主義とアメリカの軍事介入、軍事独裁政権が強く結びついているのがわかりますね。
民主主義を獲得したり、新自由主義から脱却した中南米の国々。今日は、ボリビアが戦争放棄をうたう新憲法を5月4日に施行予定という嬉しいニュースが入ってきました。
いえいえ、原書に比べれば、数十分の一の情報しか伝達できていません。終盤は私の私見ですしね。
アメリカという国家が、自国の利益のためにはいくらでも非情になり、独善ぶりを発揮するかが、この本を読めば良くわかります。
日本を守ってくれているなんて幻想を信じて、沖縄での事件を捻じ曲げる愚か者たちこそ、この本を読むべきなのです。
在日米軍は、日本がアメリカを裏切らないための重しだと考えてもよいと思います。
昔、村山社会党政権ができたとき、沖縄の在日米空軍が、東京爆撃の準備に入ったという噂を耳にしたことがあります。信じてませんでしたが、本書を読んだとき、それもありうるということを痛感しました。
ボリビアの民は素晴らしいですね。またそれを可能にしたのは、内陸国で四方を他国に囲まれているボリビアなのに、南米全体の協調の方向ができているから可能になったのでしょうね。
表向き友好を唱えながら、中国や朝鮮半島を仮想敵国扱いして、保守論壇で脅威論を煽り、軍拡の口実にしている日本とは何と言う違いでしょう。
これはもう、魂の次元が違うとしか言いようがありません。
日本はもっと南米に学ぶべきです。
本書の続編が出ることを願っています。
いつもながら、勉強させていただき、ありがとうございます。
キューバはアメリカによる経済封鎖に対抗するために、都市農園や職住接近(自転車通勤するため郊外と都市部の住居を交換)など、未来的な施策を進め成功していることで、農業界・エコ界から熱い視線を浴びていて、私もずっと愛してます。村上龍も絶賛してますし(こちらは音楽、ですが)。
コスタリカの軍隊の廃止に続くボリビアの新憲法といい、南米はまさに台風の目。うれしい限りです。
いえいえ。とんでもない。原書がすごいだけのことです。
私は中南米については、マスコミ報道以上の知識を持ちませんでした。カストロ前議長についても、反感はないですが、演説の長い、独裁者というイメージでした。
今はその不明を恥じるばかりです。
キューバは日本よりも資源も、技術もないと思います。それなのに、長年のアメリカからの圧力を受けていながら、たくみに国際社会を渡り歩き、一部の産業が衰えれば別の物を興し、後ろ盾だったソ連が崩壊しても自主努力で福祉先進国になるとか、カストロの、「富を偏在させない」という、日本とは正反対の施策で、成功を収めてきたようですね。
もちろん、どこの国にも問題はあるでしょう。カリスマ1人の長期支配というのも、国民に選択肢を与えないという意味では、理屈の上では問題があったでしょう。
でも、国民の大多数が、その施策のもとで、昔よりも生活が改善しているという事実は、素晴らしいものです。
今はキューバの経済の主役は観光とか。ダイビングが趣味の私には、行ってみたい国の一つになりました。
今後も中南米の動きから目が離せませんね。