2008年03月16日

中国、チベット「暴動」に思う

 まずは、ニュースから。先にお読みください。
 最新のものはこちら。 http://www.mainichi.jp/select/today/news/20080316k0000m030092000c.html

 数か月前から、断続的に発生している、チベットでの「暴動」。その実情は報道規制により容易に明らかではないが、チベット仏教の僧侶たちが指導しているという。最新のニュースでは、チベットを離れた甘粛省でも暴動騒ぎがあったらしい。

 この行動だけでは、以前の記事で述べたような、中国体制の危機につながる地方暴動だとは考えにくいが、さまざまな不満や不安の暴発の引き金にはなりかねないだろう。

 もともとチベットは第二次世界大戦後、中国がチベットに侵攻し、占領・併合したもので、仏教国家チベットの指導者、現在のダライ・ラマ14世はインドに脱出し、今に至るまで、チベットの復帰とその他の平和活動に精力的に取り組んでいる。

 この、中国のチベット侵攻の様子は詳細は分からないものの、数年前、有名なブラッドピット主演で映画化された、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の映画と原作本(ドイツ人による実話である)を読むと、その一端が垣間見える。

 当時少年だったダライ・ラマに、この亡命ドイツ人は西洋文明の一端を伝え、数年間をともにすごした。
 その終盤、中国軍がチベットに侵攻し、この人物自身はその詳細を見てはいないが、ほとんど近代的軍備をもたないチベットにとっては、逃げるか従うかしか無い状況だったらしい。このドイツ人はその直後にチベットを離れた。
 中国の侵攻後数年たって、チベット独立を目的とした蜂起が行われたが、武力鎮圧され、8万人の死者を出したと言われている。ダライ・ラマは国外に逃亡し、インドで亡命政権を維持している。

 本来、険しい山岳地帯にあるチベットを、中国軍が侵略する根拠は乏しかったと私は思う。たぶん「革命の輸出」を図っていたのだと思う。推測でしか無いが。

 最近まで、チベット情勢は別に不安定では無かった。表面に出ないだけかもしれないが、NHKの「シルクロード」などで、チベットのポタラ宮などがたびたび紹介され、今では外国人観光客も受け入れている。

 ここにきて、チベット仏教による僧侶を中心とした「暴動」が起きている背景には、これも推測でしか無いが、ダライ・ラマが高齢で、今だ壮健ではあるが、次のダライ・ラマを選び出す、チベット仏教でもっとも重要な一連の儀式の時期が近付いているという、危機感が背景にあるのかもしれない。

 ダライ・ラマは、パンチェン・ラマなどと同様に、「生き仏」とされ、転生するものと信じられている。もし、今のダライ・ラマが死亡したら、可及的速やかに、転生したはずの子供を、新たなダライ・ラマとして、チベット国内から探し出さねばならなくなる。ダライ・ラマを否定する中国政府のもとで、この儀式が行われなければ、チベット仏教は、その根底から揺さぶられる。
 その危機感は、国外、国内いずれにしても、チベット仏教徒にとって、極めて重要な問題なのだと思う。


  「暴動」と報道されているが、チベット仏教は、日本の仏教以上に、不殺生を重視する。暴力的な独立運動をしているとは思えないのだが、真相はわからない。平和的デモに催涙弾が打ち込まれ、僧侶を支持する市民が怒り、放火を行ったという説もある。
 いずれにしても、上記の新聞報道を含め、珍しく新華社通信までも、暴動の事実を報じた。ただし、デモ側の暴力、放火などで10名程度が死亡したと伝える一方、アメリカが反中国活動の一部として支援している報道局によると、逆に80人の市民が、中国軍によって殺害されたという。チベット亡命政府は30人殺害と声明で述べている。
 いずれも、思惑のある通信社、声明であるから、死者の人数は未確認であろう。しかし、死者が出たのは間違いないと思われる。不幸なことだし、圧倒的武力をもつ政府側に死者が出たとは考えにくい。

 リンクが切れてしまったので消したが、別の新聞報道によると、戦車が出動したという。発砲の有無は不明だが、これは武力鎮圧である。
 歴史上、根源的な独立志向や、宗教的情念を基にする活動を、武力で鎮圧して、物事が収まった経緯はまずない。かえって反感が拡大して、やがて大きなうねりとなり、独立や、この場合は、新ダライ・ラマの選出を妨害しないという対応が中国には求められると思う。

 インドの動きもわからない。インドが中国に戦争を仕掛けるとは思えないが、かつて国境紛争をした国同士である。チベットの帰属をめぐって、争いの火種となる可能性はわずかながらあると思う。
 となると、双方、核ミサイル保有国である。そこまで発展するとは思えないが、そう考える両政府は、どちらかが自制を失えば、悲惨な結末が待っている。インド国内でもチベット系の人の反発が高まっている。現代は、かつて中国軍が蜂起を鎮圧した1950年代とは違い、ニュースの速度がすさまじく速くなっている。報道規制で抑え込めるものではない。

 現在の中国政府が、武力で直接併合した国はチベットだけだと思うが、中国西部には、イスラム教徒を中心にした、今の漢民族による中国政府とは全く違う文化、民族の人々もいる。彼らは自分たちの生活で自足しており、そのままでは混乱の要因とはなりえないが、たとえば隣接する、旧ソビエトから独立したイスラム教徒の多い国々の方が、中央政府より親和性がある。また、沿岸部の富裕層と比べれば貧しい生活をしているわけで、その情報が伝われば、不満が高まる可能性はある。

 また、中国の核搭載大陸間弾道弾の多くは、これらの西部地方に配備されており(対ロシア用)、取材などの立ち入り禁止の区域が広がるが、そこで暮らしている人々はどう考えているのか、まるで把握できない。

 中国政府としては、批判や反乱の呼び水とならないように、このチベット「暴動」をできる限り速やかに鎮圧しようとするだろうが、そうしようとすればするほど、チベットの人民の不満は高まるだろう。
 いちばんの平和的解決策は、亡命中のダライ・ラマを迎え入れ、その死後、新しいダライ・ラマの選出を妨害しないことだと思うが、中国政府は、今回の「暴動」の背後に、亡命政権がいると決めつけて非難を行っている。愚行であろう。

 どこかで読んだのだが、中国の多くの民にとって、政権と言うのは自分たちとは無関係に変わるものだという、無関心が多いそうである。冗談だと思うが、今だに中央政府は国民党政権だと信じ込んでいる村があるという話も聞いた。だから、清朝のように、満州民族が支配しようと、漢民族が支配しようと、その影響が自分たちに及ばなければ、無関心のままでいるだろうという話である。

 しかし、国内情報が統制されているとはいえ、テレビやネットの発達。国境付近の漢民族ではない民族は、民族、宗教的に親和性のある、隣国から情報を入手するかもしれない。その方が誇張も混ざり、不安要素を拡大するであろう。

 私は現在の中国政府の転覆を願っているのではない。しかし、万が一そうなれば、日本にも大きな悪影響が及ぶ。と言って、武断主義的な鎮圧、抑圧には反対である。その意味で、中国政府が宥和的解決策を見出してほしいと願っている。資本主義を受け入れた政府である。各自治区の独立を認め、連邦共和国への転換を模索すべきではないかと考え、また、核廃棄も同時に行うべきだと考えるが、無駄な望みであろうか。

 なお、朝青龍で有名なモンゴルでも、チベット仏教が広く信仰されている。ことは単にチベットにとどまらない問題になるかもしれない。

(本日も、アクセスランキング、応援よろしくお願いします。なんと、今10位、みなさんからは7位。)
(追記)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080316-OYT1T00024.htm
 この情報からすると、死者は100人に達してもおかしくはない。またテレビで見たが商店のシャッターを蹴破るのに、参加している僧侶もいた。政府側が圧倒的だが、暴力の応酬となっている模様。
 一刻も早く、ダライ・ラマと和解し、彼を受け入れて、政教分離、もしくは一国二制度で、チベットとその仏教の存続を図ることこそ、中国が国際社会で名誉ある地位に就くための道と信じる。こんなことをしていたら、北京オリンピックなどしても、中国への不信は拡大するばかりだ。ボイコットする国も出るかもしれない。

☆思い切って、この記事を、中国大使館に送付してみます。蟷螂の斧であっても。
posted by 眠り猫 at 11:08| 東京 ????| Comment(10) | TrackBack(6) | 時事
この記事へのコメント
中国政府が各自治区(自治はないが)との融和を図ったら共産党独裁が成り立たないので、これはないでしょう。
いつの時でも、あそこは武力で押さえ込もうとします。んで、それが出来なくなったら易性革命。
その後、また繰り返しでしょうね。
中国が分裂しようが、腐れようが全く構いませんが、次の目のありそうな人、若しくは集団(この場合、敵対している連中でもよし)に取り入っておく事が日本のとるべき道かと…あ、その前に企業も撤退可能な体制を作っておかないと…
Posted by レン at 2008年03月16日 13:02
>レンさん
 ん〜、難しい問題です。中国政府が北京オリンピックの開催で、国としての威信を示そうという矢先のこの事件。すでに国際マスコミに載っている以上、もみ消しはできない一方、融和策にも出ないでしょうね。
 ただ、事実上の資本主義を受け入れ、香港で一国二制度制を認めてきた以上、まずはチベットだけでも、政教分離の上、ダライ・ラマを迎え入れて、事態を収拾する方が、国際社会からははるかに見直されるでしょうね。
 全自治区を独立させての、共産党一党独裁は夢かもしれませんが、上記の程度なら、できなくはないはず。
 中国は、日本の文化の親。やはり混乱してほしくはないです。
 日本企業は、すでに大きいところは回避を始めています。ウクライナとかロシアに。
Posted by 眠り猫 at 2008年03月16日 13:21
>  「暴動」と報道されているが、チベット仏教は、日本の仏教以上に、不殺生を重視する。

それは間違いではありませんか?チベットは清朝の時代から、ダライラマの側近達が権力争いで殺し合いを何度も繰り返しています。また、清朝の内戦(三藩の乱)では、ラマ教信者の多い満州族でなく、あろうことか反乱軍の漢民族を支援しました。
それに当時住民は領主の気まぐれで殺されることは珍しくありませんでした。

>「セブン・イヤーズ・イン・チベット」

これは僕も小学生の時に騙されました。昔のチベットはあんなのどかな楽園などではありません。
上記の私の発言の根拠は、『現代チベットの歩み』(A.トム・グルンフェルド 著 八巻 佳子 訳 東方書店)という学術書です。
そのおかげで、昔の権力者で構成された亡命政府が人権を語るのか?と、いまでは批判的に見るようになっています。
それに政教分離といいますが、それなら今すぐダライラマを名乗るのは辞めてテンジンギャツォという本名で活動すべきではないでしょうか。自分は生き仏でないと行動で示すべきと僕は考えますが。
Posted by tokumei at 2008年03月16日 19:16
http://cruel.org/economist/tibet.html
インド人の書いた記事の和訳です。
政教分離を条件としたチベット仏教の保護は、今でも確保されていますよ(イスラム教やキリスト教等他の宗教の信教の自由も同様ですが)。寺院等の史跡も観光資源ですから。暴動で観光客が来なくなったら、チベット人も困るでしょう。
Posted by Black Joker at 2008年03月16日 19:50
>tokumeiさん
 そうですか、私は宗教面しか、チベット仏教に関心が無かったので、歴史などには不案内でした。どうもすいません。
 「セブン〜」については、私も読んでいて、彼ら(映画と違い実際は2人でした)は、客人としての保護を受け、衣食住を与えられていましたので、これは一般のチベット人の生活とは違うという感じは受けていました。
 しかし、それを言えばわれわれの祖先の手も同胞の血に濡れています。
 だからと言って、今回の暴動を座視して、軍事力による鎮圧を是認することは別のことでしょう。
 私はあくまでも、今のように主張いたします。
Posted by 眠り猫 at 2008年03月17日 08:26
>Black Jokerさん
 そんなことは私も知っています。
 私が問題にしているのは、ダライ・ラマの「転生」についてです。
 ダライ・ラマが国外にではあっても生きていれば、まだ宗教的基盤は維持できますが、中国政府は、なんと、転生も、政府の許可制にしています。当然、反中国的なチベットの宗教的中心、ダライ・ラマの転生を認めない方針でしょう。
 私はそれを、何とか解決しないといけないと言っているのです。
Posted by 眠り猫 at 2008年03月17日 08:30
転生って、要するに「チベット仏教の代表責任者の一人」の指名でしょう。反社会的な不適切な人物が代表責任者にならないように政府が監督するのは、そんなに変なことでしょうか。
日本でも政府が宗教法人の認証をしていますよ。オウム真理教が宗教法人になる申請をした時ダライ・ラマ14世はオウムの支援者として推薦状を出しましたが、後にオウムは日本政府から宗教法人解散命令を受けましたね。
日本でも宗教信者が徒党を組んで刑法の騒乱罪や内乱罪に相当するようなことをやったら、警察は鎮圧するし犯人逮捕するでしょう。犯人グループは狂信的カルト集団とみなされますよね。
眠り猫さんはダライ・ラマを美化し過ぎなのではないですか。麻原彰晃と語り合ったあの宣伝上手で狡猾な野心家の本音は、チベットを政教一致にして自分がその最高権力者になることですよ。
Posted by Black Joker at 2008年03月17日 17:41
 中国共産党のドグマを支持して、侵略、弾圧を見ようとせず、ローマ教皇に比すべき伝統的宗教のみを叩こうという方には、出入り禁止といたします。
Posted by 眠り猫 at 2008年03月17日 18:04
どうも、tokumeiです。

>侵略、弾圧を見ようとせず、ローマ教皇に比すべき伝統的宗教のみを叩こうという方には、出入り禁止といたします。

うーん、侵略と即座に決め付けるのはどうかと思いますよ。辛亥革命から数十年間、当時のチベットの政権は国交を樹立する意思が弱かったようですし。ほら、「駐日チベット大使館」って戦前の日本では聞いたことないでしょ?例えば満州事変でも、「満州国」承認した独立国にチベットは入ってないし、国際連盟にも参加してないはずですよ。
多分張作霖・張学良親子みたいな「軍閥」に近かったんじゃないでしょうか。
Posted by tokumei at 2008年03月20日 22:41
次に、「ローマ法王に比すべき伝統」には異議を唱えます。wikiやこちらの「哲学的な何か(後略)」でも述べていますが、
www.h5.dion.ne.jp/~terun/doc/rinne.html
www.h5.dion.ne.jp/~terun/doc/rinne2.html
www.h5.dion.ne.jp/~terun/doc/rinne3.htmlでは2世以前は権威付けのための後付で、史上初めてのダライラマは3世なのが事実です。称号を得たのは1578年、何と徳川秀忠の生まれる1年前です。
そのダライラマ「一世」とされる人物はチベット仏教の改革者ツォンカパの弟子ですが、彼ですら室町時代の一休さんより3歳年上程度です。ローマ教皇に較べるほどというのは誇張でしょう。
昔のチベットは、こういう無茶な箔付けを繰り返した末に内乱になり、清の介入でなんとか安定を取り戻したというのが実情でした。
Posted by tokumei at 2008年03月20日 23:43
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